IMFと中国人民元
2015年11月23日
2015年11月23日
中国人民元が国際通貨基金の特別引き出し権(Special Drawing Rights, SDR)の構成通貨に採用されることがほぼ決まりました。正式には11月30日の理事会で正式に決定されることになります。
国際通貨基金、通称IMFは加盟国(現在187か国)からの出資を財源として国際金融の安定を担う役割を与えられています。金融とはお金を融通する仕組みですから、お金の流れが滞らないようにする必要があります。具体的には債務の不履行などが国家間において起こらないように監視するとともに、金融危機に陥った国には外貨を貸し付け、制度改革を促します。最近では1997年に韓国が通貨危機に陥ったためIMFに支援を求めました。韓国はIMFから外貨の融資を受けるとともに、IMFからの指示で様々な構造改革を実施したのは記憶に新しいところです。
SDRの構成は現時点で、米ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨となっており、中国はここに人民元を加えたいと考えています。ただ、SDRの構成諸通貨は自由に兌換可能なハードカレンシーであるという象徴的な意味合いしかなく、そこに人民元を形式的に追加することで生じる現実的なメリットはありません。なぜ中国が人民元の採用にこだわるのかは謎ですが、世界第二位の経済大国としての面子の問題なのかも知れません。
今後の問題は人民元が実際のハードカレンシーとして通用するかどうか、中国の金融自由化は今後どうなるのか、そして基礎となる中国の政治経済がこれからどのような歩みを進めるのかということになります。
WTOに加盟してからの中国の動きを見ていると加盟国としてのメリットは享受するものの加盟国としての義務や責任に対しては真剣に向き合わないという行動パターンが読み取れます。中国人民元がハードカレンシーだと宣言したからにはそのための環境整備を前向きに行っていただく必要がありますし、政策の透明性を高める、なぜそうするのか説明責任を果たすということも求められます。ただGDPの数字ひとつとっても政治的に脚色されている疑惑があって経済の実態については不透明感が拭えないわけです。裏帳簿でも付けていて中国自身では本当の経済実態を把握できていればまだ良いのですが、そんな器用なことをしているとも思えないので自国の経済状況がよくわからない状態で適切な政策を実施できるのかという疑問もわきます。患者の本当の体温や血圧がわからない状況ではどんな名医でも適切な治療を行えません。
さらに言うと、ハードカレンシーかどうかは権威を持つ機関が決めるというものではなくて、その通貨が自由兌換可能な客観的な状況が先にあり、そしてあるタイミングでSDRに採用される(採用されたからどうだということも無いのですが)というのが自然な流れですが、中国の場合はSDRに採用してもらうために制度変更を実施していますし、その様子は資格試験をクリアする学生のようである意味順序が逆転しているわけです。
例えば資本移動を自由化してよいかどうかはその国の経済の成熟状況に依存します。客観的な状況をよく検討せずにいきなり資本移動を自由化すれば自国の経済に悪影響を与える可能性があります。わが国の場合は戦後しばらくの間外貨の持ち出しも制限されていましたが、徐々に自由化が進み90年台後半に金融ビッグバンという形で節目を迎えました。
自由市場経済は情報が公開され、自由にやり取りすることができ、個人が自身の責任と判断でマーケットに参加することで適切な価格が決定されるという意味において民主主義の一形態です。中国はマーケットを都合の良いように利用しようとしていますがその本質を受け入れようとしているとは考えられません。しかし、中国が国際金融に積極的に参加することを決めたということは中国経済がもたらす混乱が我々の経済にも直接的に波及する恐れがあるということでもあります。そのことに十分注意した上で今後の中国の動きに目を配っていきたいと思います。